覗き込めど、どこも定員。
……なかなかままならない感じね。
でも、夜風がずいぶんやわらかくなったから、夜歩きも長いことできるようになって嬉しいわ。
とはいえ、暑くなりすぎても困りもの。
夜歩きに適しているのは、いまのうち。
じっくりとっぷり、左右へ曲がって。憎まれっ子は夜歩く。
ちゃんとした日記を書くのは、こっちに来てからはじめて。
ここのところ……というか、アクスヘイムに来てからずいぶんほったらかしだった荷物の類を開けて、身辺整理をしてたのよ。
その内容物の重いこと重いこと。
荷造りをしていた当初はあわただしくて気づかなかったのだけれど、わたしが荷造りしたときよりも積荷がふえていたわ。
どうやらお師匠さまのお節介のようで、生活用品がやけに充実したわ……。
部屋がずいぶん寂しかったから、ちょうどよかったのかもしれないけれど。
とまあ、そうこうしていたら次はお店からすっかり遠のいていた足。本末転倒というやつね。
今日はここまで。時間があるときに、もっとゆっくり、色々書きたいものね。
あらすじ
あるところに1人の女の子が、わるい両親とともにひどい暮らしをしていました。
父親も母親もろくでもない人間で、女の子は実に不幸でかわいそうなありさまでした。
女の子はいつも、大きなふるい鏡がしまってある物置で、人目を忍んで泣いていました。
その不幸でかわいそうな女の子が、いつものように物置で肩を震わせて泣いていると、ぐにゃり、と足元がゆがみました。
みるみるうちに暗く薄汚い物置は遠ざかっていき、女の子は砂糖菓子でできたような、桃色や水色ばかりの世界に立っていました。あかるい日差しが世界になげかける白いベールで、世界はやさしくつつまれています。
どんぐりまなこをまんまるにして驚く女の子の前にあらわれたのは、やさしく輝く瞳の、素敵なおうじさまでした。
おうじさまの瞳に嘘はありませんでした。実際、おうじさまはやさしい人だったのです。
女の子はおうじさまに手をひかれ、夢のような世界に踏み出しました。
以来、鏡のむこうにある不幸は女の子からはもっとも遠いものとなり、女の子はおうじさまと幸せに暮らしました。
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